眼前の酒宴を眺めながら、隣にいた新八が口を開いた。
「――――沖田さん・・・・遅くありません?」
「別に、良いんじゃね?此処にいたって、どうせ暇なだけなんだし」
同様の事を考えていたのか、反対側に待機していた2トップも。
沖田君について、語り始めている。
「あんの野郎・・・・もしかして。ま〜た、どっかで。サボってんじゃ、ねえだろうなあ」
煙草をこれでもかと噛み潰し、額に血管を浮かべながら。
常日頃から部下に翻弄され、遊ばれている土方が怒りを露にしていたが。
両手を挙げ、苦笑いを浮かべつつ副長を嗜めるゴリ。
「まあまあ、落ち着け。もしかしたら、大きい方かも知れんだろう?」
「甘めえよ!近藤さん!アイツは何かにつけては、サボる口実を見つけようとするじゃねえか!!
現に今もオレ等に見つからない様な、場所でも探してるかも知れねえ」
――――と、土方が首を周囲に巡らせた時だった。
「遅くなりやした」
沖田君が厠方向から、戻って来たのは。
「随分、時間掛かってたねえ?トイレ、混んでたの?」
当の人物が現れたので、質問をしてみる。
「いやいや、ちぃっとも。その変わり、『奇跡』は起きやしたけどね」
いつものポーカーフェイスながらも、何処か上機嫌な沖田君。
「奇跡?」
「――――ああ、いいえ。こっちの話でさァ」
それだけ言うと、彼は持ち場に戻って行く。
「トイレで奇跡って・・・・何か、あったんですかね?」
ずっとオレ等の会話を聞いていた新八が、質問を投げかけて来た。
「さあな。トイレに入ったまでは良かったが、紙が無くて右往左往していた所に親切な人が。
ティッシュペーパーでも、投げてくれたんじゃねえの?」
「・・・・・嫌ですよ、そんな『奇跡』なんて」
「ばっ・・・・!お前、何言ってんの!?紙があるか無いで、天国か地獄にもなるんだよ!?
あ〜・・・・苦い思い出が、オレの脳裏に浮かんで来る・・・・・」
右手を額に当て、思わず柳生一族との事を思い出していた。
―――――あん時程、神を祈った事は無い。
「どうでも良いですよ、あんたの苦い思い出なんて。
それにしても、どんどん酒の席が盛り上がってますね。このままだと、マズイ様な・・・・・」
紅葉鑑賞どころか、主役は酒に変わっている。
奇声を上げる奴や、絡んで喧嘩を始める奴・滝涙を流し始める奴等を尻目に。
「放っておけ、放っておけ。どうせ無礼講だ、誰も文句は言わねえよ」