――――未だに、この場所から動けないでいる自分。

・・・・よりによって、一番見つかりたくない奴に正体がばれて。

更には耳を疑う様な台詞を、吐かれ――――半ば放心状態に陥っている。

『てめえが好きだって、伝えたくて』

私の耳の鼓膜が、おかしくなければ。

あの男は確かに、そう言った――――しかも真顔で。

それを言いたかったが為に、大江戸中を探し回っていたと言う事も。

きっと・・・・頭のどっかを、強く打ったんだろう。

そうに決まっている・・・・じゃなければ。

あんなそら恐ろしい台詞、口から出て来る訳が無い。

思わず無意識に、『私はお前が大嫌いアル!』と。

大声で、睨み付けたのに対し―――――。

自分の気持ちを伝える事が出来て、気が済んだのか。

ドS王子は鼻唄交じりで「へえへえ」と、この場から立ち去ってしまった。

どうしよう――――もし、あの野郎が。

私の事を銀ちゃんに、告げ口でもしたら。

今までの苦労が、水の泡になってしまう・・・・。

『安心しな、旦那には言わねえよ。てめえがそれを望むんならな』

そうは言っていたものの・・・・安易に信用は出来ない。

きっと今日・・・・銀ちゃんと、新八が一緒にいるのは。

『真選組』から正式な依頼要請があって、上様の警護をしていると思われる。

成程・・・・ならば、合点が行く。

どうもそよちゃん側から、上様サイドを見ている限りでは。

すぐに終わる所か、長引きそうなフインキだ。

紅葉鑑賞なんて、態の良いお飾りで。

専ら酒を飲んで、大騒ぎするのが目的なのだろう。

「・・・・・まだまだ、気は抜けないネ」

とりあえず、一旦――――そよちゃんの傍へと戻ろう。

そしてあのドS野郎の行動を、逐一監視しなくては。

銀ちゃんと接点を持ってる時が、一番気を付けねばならない。

―――――大丈夫。きっとうまくいく。

折角『万事屋』から離れて、用心穴の仕事にも軌道が乗って来たのに。

あんな奴の為に、ご破算にさせてたまるか。

「よしっ!」と気合を入れて、再度厠の出口に向かおうとした――――時。

「あ〜・・・・とっとと、終らねえかなあ。いい加減、疲れて来ちまったっての」

一番逢いたくて、一、番逢いたくない人の声が・・・・両耳に届いて来た。




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