ずうっと立ちっぱってのも、しんどいんだよなあ。
気分転換も兼ねて、沖田君に倣い――――オレも厠に行く事にした。
「わりィ、新八。オレもちょいと、行って来るわ」
「あ、はい。分かりました」
ダメガネに断りを入れて、厠への路をのんびり歩いていく。
視界左方向に、茂茂公の妹君の設けられた席が伺えた。
「――――あちらさんは、本当に『紅葉鑑賞』をしてるみてえだな」
腰元達に囲まれて、周囲の木々に彩られた紅葉を堪能している。
「・・・・オレ達も、どうせなら。妹君の方の護衛が良かったなあ」
けたたましい騒音を、耳に入れずに済むし。
何が悲しくて、オヤジ共の護衛なんざしなければならんのだ。
背伸びをしつつ、目的地である厠が見えて来たので。
首を上下左右に回し、肩を鳴らしながら一息ついた。
「あ〜・・・・とっとと、終らねえかなあ。いい加減、疲れて来ちまったっての」
―――――男便所の入り口に、入ろうとした時。
女便所の入り口で、突っ立ってる『女』がいた。
どうも格好からするに・・・・・そよ君の、腰元みたいだが。
・・・・・・・あ。どっかで、見覚えがあると思ったら。
「あんた――――さっき、沖田君に絡まれてた女中さん?」
身体をびくりと硬直させ、顔を下に向かせたまま一言も返そうとしない。
「・・・・・・・」
「――――いつまでも。こんな所にいっと、姫さん心配すんじゃねえ?」
「・・・・・・・」
こちとら親切心で、言ってやってんのに。
うんともすんとも、言わないのかよ。
―――――全く・・・・今時の女中の教育は、どうなってんのかね?
まあ・・・・別に良い。
こんな無言女を相手にする為に、厠に来た訳じゃない。
とっとと用を済ませて、戻ろうとすっか。
無言の女中を尻目に、オレは個室トイレに向かった――――その時。
背後から女性の甲高い悲鳴が聞こえ、咄嗟に体制を変える。
「―――――!?何事だ!?」
――――と、突然。今まで俯いていた、腰元女が顔を上げて。
「そよちゃん!!」と、大声を出すと一心不乱でその場から駆け出そうとしていた。
――――――!?・・・・・今の声。
聞き間違える筈が無い――――オレの心に居座ってる娘・・・・神楽の声だった。