どうしてこうも、ついていないのか。

あのドS男との対面を――――どうにか、事なき終えたと思ったら。

急いで元の居場所へ、戻ろうと向かった出口に。

今度は、今の私を作った当人が眼前にいる。

「あんた――――さっき、沖田君に絡まれてた女中さん?」

久々に聞いた銀髪男の声が・・・・私の鼓膜を刺激してくる。

ああ・・・・銀ちゃんの声だ。

無意識に、身体が硬直し――――声さえ出て来ない。

「――――いつまでも。こんな所にいっと、姫さん心配すんじゃねえ?」

そんな事は百も承知だ・・・・・けれど、足が思う様に動いてくれない。

まるでコンクリートの床に、接着剤でも塗られたみたいに。

私の反応に呆れたのか、それとも飽きたのか。

銀髪男は男性厠へと、向かって行った――――その時。

―――――聞き覚えのある悲鳴が、私の鼓膜を刺激した。

・・・・・・この声は、まさか。

「そよちゃん!!」

咄嗟に顔を上げ親友の名前を、無意識に声に出し。

直立不動だった身体を、動かした。

張り付いていた両足が、嘘の様に床から離れていく。

―――――だが。瞬時に行動を、阻止されてしまっていた。

「!?」

左手首に・・・・・ある感触。

誰かが――――私の左手首を、掴んでいる。

その人物は容易に、想像出来た・・・・今しがた遭遇してしまった男。

「―――――かぐ・・・・ら?お前――――神楽なのか?」

戸惑いと驚きを交えて、私の名を呼んでいる。

・・・・・忘れたくたって、忘れられやしない。大好きな、銀髪男の声。

――――ああ、何故声を出してしまったのだろう?

両目を瞑り、唇をきつく噛み締める。

「・・・・・・神楽?神楽、なんだろ?」

その声で、私を呼ばないで――――。

・・・・・目頭が、熱くなる。

鼓動がうるさいくらいに、両耳の鼓膜に届けられる。

「―――――――」

返答する事も無く、掴まれた手首を勢い良く振り払い。

私は逃げ出す様に、この場から駆け出した。





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