白く華奢な手首を、無意識に掴んで。
オレは、女の名前を呼んでいた。
――――だが、眼前の人物は答える事も無く。
掴まれた手首を振り払い、この場から走り去って行く。
間違いない・・・・アイツは、神楽だ。
咄嗟に掴んでいた右手が、異常な程に熱く感じてしまう。
既に地球を出ていたモンだと、思っていたのに。
こんな形で――――再会するとは。
・・・・・どうして、こんな場所に?しかも、あんな格好で?
茂茂公の、妹君の名を呼んでいた所をみると。
側近か、護衛をしてるんだろうか?
先程の・・・・・甲高い声が、耳から離れてくれない。
左手首の感触が、いつまでもこの右手に宿っている。
――――この気持ちを、忘れたいと。
時間がきっと、薬になってくれると――――そう信じてたのに。
鎮めようとしていた感情が、更に膨張するのを感じる。
鼓動が早鐘の様に、うるさいくらいに活動中だ。
今更ながら、右手が震え出すなんて。
――――自分から追い出しておきながら、この様は何だ?銀時。
「―――銀さん!!」
突然――――己の名を呼ばれ、我に返れば。
険しい顔をしたダメガネが、厠の入り口にて両肩で息をしていた。
「大変です!!上様の妹君が――――」
「!?」
新八の焦り様に、厠どころでは無くなる。
今しがた起こった出来事を、出来るだけ脳味噌の端に追いやり。
踵を返し走り出す、新八の背を追った。
―――――辿り、着いてみれば。
どこぞの天人らしき不逞な輩が、そよ君に向けて銃口を向けており。
傍に仕えていた腰元達は、怯えた声を上げていた。
天人達と対峙する様、真選組隊士達が刃を向けている。
視線をゴリ達の方へと移動させれば、茂茂公や幕臣達を安全な場所へ誘導中で。
酒に溺れていた野郎共は、腰を抜かしながら顔面を蒼白させて。
己等を警護する、頼もしき真線組に頼りきっていた。
――――しかし・・・・茂茂公の『護り刀』で要でもある、隊士随一の剣の使い手は。
自分の配役を無視し、隊士達の先頭を陣取っていた。