私の身体から、ゆっくりと離れるそよちゃん。
抑えきれない涙を手拭で、拭いつつ――――私の正面にきちっと座した。
「――――女王さん。今まで私の用心棒を勤めて下さり、真に有難うございました」
畳みに両手を付いて、深々と頭を下げてくる。
「え?何で!?どうして、急にそんな事言うの?そよちゃん」
「星海坊主さんから、お聞きしました
・・・・女王さんの夢は――――えいりあんはんたーになる事だと」
くっそ〜!このクソ親父!余計な話しをしやがって!
「そ・・・・それは!別に今で無くたって!」
だが・・・・・私の否定の言葉に、彼女は頭を左右に振った。
「女王さん。私は貴女の、足枷になるのは嫌なのです」
「そよちゃん・・・・・・」
「女王さんの背中の羽は、このお江戸城には狭過ぎます。だから・・・・もっと、もっと。
世界へと羽ばたいて下さい。それこそ、全宇宙へと。お父様と一緒に。
そしてたまには地球に帰って来て、いろんな話しを聞かせて下さい」
あれだけ流れていた涙が、止まっていて――――今では笑顔が咲いている。
彼女は立ち上がり私から離れ、禿げ親父の元へと近づいた。
「今まで大事なご息女を、お借りしてしまい・・・・申し訳ありませんでした」
背筋を伸ばし、両手を重ね合わせ――――再び頭を垂れる、親友。
「いいや。こちらこそ、色々と迷惑掛けちまったみてえだ」
「とんでもありません。短期間でしたけど女王さんと一緒にいる日々は、本当に宝物の様でした」
「コイツの容態が安定するまでは、暫くやっかいになる。悪ぃな」
「いいえ。どうぞ、お気兼ね無く・・・・それでは、失礼致します」
私とパピーに頭を下げると、そよちゃんは部屋から出て行った。
「―――育ちが違うって言うのは、ああいう子の事を言うんだろうなあ。
んで?お前の気持ちは固まりそうか?じゃじゃ馬娘」
・・・・・確かに、此処で賃金を溜めて。いずれは地球を離れるつもりだったし。
ただ――――そよちゃんとの生活が、楽しくてずるずるしてしまったり。
それに・・・・此処には、『地球』には。
銀ちゃんが、いたから。
例え自分から逢うのを、避けていても――――銀ちゃんの存在が私を縛っていた。
だけど・・・・もう、潮時かも知れない。
『しんじゅく御苑』で、大声で必死に私の名を呼んでくれた。
それだけで―――――私は、十分幸せだ。
「――――うん。決まったヨ。パピー」