「後悔?」
―――――突然、何を言い出すんだ?このオヤジは。
「・・・・オレは神楽が、幼少の頃から。いや――――
自分に恐ろしさを覚えた頃から、逃げる様に故郷を飛び出した。病がちな妻と娘を置き去りにして
――――代償として付いた名が、『宇宙最強のえいりあんはんたー』だ。
こんなモン正直嬉しくも、なんにもねえ。看取れぬまま、最愛の妻は逝っちまった。
一人になった娘は寂しさのあまりから、故郷を飛び出して『地球』という宿り木を見つけた。
自分の事だけに精一杯だったオレは、見向きもしようとしなかったのさ。
最愛の家族が―――目の前から消えた瞬間・・・・それこそ、オレは後悔したよ。
何で傍にいて、やれなかったのかってな」
初めて見せる、哀愁帯びた表情。
――――オレは黙って、言葉に耳を傾けるしか出来なかった。
「・・・・・・」
「だがな、銀髪。てめえはまだ、間に合う。己の気持ちに気付いてるんなら、
どう動けば良いのかくらい分かる筈だ。何もしないで後悔するよりは、
行動起こして後悔した方が余程気分が良いんじゃねえのか?」
何が、言いたいんだ・・・・?
「・・・・・・」
「再度、聞くぞ?てめえはそれで本当に良いのか?愛する者が、自分の傍から消えていなくなる
・・・・それでも平気なのか?後悔しねえか?」
真摯な表情で問い掛けて来る、星海坊主。
「―――――平気な訳ねえだろ!」
気付けば大声で、答えていた。
「アイツは・・・・神楽は・・・・・」
オレが一番、傍にいて欲しい存在で。
両膝の上で握っていた拳に、更に力が加わる。
「――――決まったな」
そう言うと禿げオヤジは、すっと何かをテーブルの上に差し出した。
「オレ達が今、宿泊しているホテルの住所だ。其処に神楽はいる」
「――――――え?」
驚愕した表情を、星海坊主に向けたら・・・・こんな台詞を言われる。
「てめえが腑抜け野郎のままだったら、教える気なんざ―――更々無かった。
もう一発キツイ拳固を、見舞ってた所だ。・・・・だが。覚悟は、決まったみてえだからな」
擬音にすれば『にやり』と言った態で、眼前のオヤジが笑みをこちらに向けた。
「親ってのはなあ、世の中の誰よりも・・・・子供の幸福を願うモンなのさ。
まあ・・・てめえの元に戻るか否かは、アイツ次第だが。てめえの気持ち、ぶつけて来な」
「行って来いよ」と背中を押され、渡されたホテルの居場所のメモを握り締め。
「ありがとな、お父さん」とだけ、言うと。
オレは無我夢中で『万事屋』を飛び出したが。
その直後に苦笑いを浮かべ「・・・・まだ気が早えだろ」と、呟かれた言葉を耳にする事は無かった。
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