「何アルカ?」と、鉄の壁越しから――――聞こえて来る愛しい女の声。
駆け足とは違った部類の汗が、額と背中に噴出してくる。
逢いたくて、逢いたくて――――全力で人混みを避けて、ようやっと辿り着いたって言うのに。
情けない事に、いざ目の前に立つと・・・・言葉が、喉を通り過ぎるも。
前歯で、塞き止められてしまう。
こんなんじゃ、ダメだろ!つうか、めっさ・・・・へたれじゃん!オレ!
「え〜・・・・ルームサービスですぅ」
気付かれぬ様に、激しかった呼吸を抑えつつ。
ちょっとした裏声を使って、自分だと悟られない様に演技をする。
知られた瞬間、コイツは絶対にこのドアを開けてはくれない。
そんな気が、したからだ。
「ルームサービス?・・・・頼んだ覚えはないネ。間違いじゃないのカ?」
「いえいえ。星海坊主様から、ご注文を承っておりますが・・・・・」
「パピーが?・・・・まだ戻っても無いのに・・・・おかしいアル」
意外と警戒心が強い――――と言うか、そんな風にしてしまったのはオレだけど。
怪しい奴・出来事には、注意しろと・・・・口酸っぱく教えたからなあ。
此処で今それが、仇になって返って来るとは。
―――――が。そんな事で、めげる様な銀時様では無い。
「神楽様がお部屋にお戻りになられたら、運んで欲しいとの事でしたから・・・・」
口八丁なら、お手の物である。
あの長谷川さんの弁護士を、務めた経験もあるし。
「開けては、頂けませんでしょうか・・・?」
「・・・・・・・」
壁の向こうからは、無言しか返って来ない。
―――――と、思ったら。
鍵が解除される音がして、ドアノブがゆっくりと回る。
徐々にゆっくりと開かれる、鉄の壁――――そして、隙間からは。
1ヶ月以上も離れていた、愛しい女の顔が覗いていた・・・・が。
「!?」
オレの姿を見るなり――――急いで、閉めようとする。
そうはさせじと、右足でそれをブロックした。
一生懸命ドアを閉じようとする為、ブーツの先がへこんで変形していく。
「――――いっ!痛い!!痛てえよ!神楽!足!足!千切れる!」
「何で!?何で銀ちゃんが、此処にいるアル!?」
一瞬力が弱まった隙を狙い、両手を使ってドアをこじ開ける。
潜入された神楽は首を振りながら、一歩一歩後ろへ―――オレとの、距離を開けていった。
それに対し・・・・距離を縮める為、一歩一歩前進する自分。
※やっと銀さんと神楽ちゃんのご対面。
・・・・・・此処まで来るのが、本当長かった気がします。
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