意地でも、こちらを向こうとしない女と。
意地でも、こちらを向かせようとする男。
――――分かってる。オレのしている言動は、神楽にしてみれば矛盾もいい所で。
「出て行け」と「一人の時間が欲しい」・・・・「世間をもっと良く見てみろ」と。
縋っていた女を、突き放したのは自分――――だったが。
結局己の中に宿る『恋情』と『後悔』の毎日で、酒浸りの生活を過ごし。
『しんじゅく御苑』で、愛しい女の横たわる姿を見て――――正気を無くしかけ。
昔馴染みの男と、眼前の娘のオヤジに諭されて。
―――――今、オレは。神楽を取り戻そうとしている。
『何もしないで後悔するよりは、行動を起こしてから後悔する方が良い』
―――――ああ、確かにそうだ。
オレが神楽に、自身の気持ちを告げて。
それでも、あの禿げオヤジと共に・・・・『えいりあんはんたー』になると言っても。
明後日・・・・『地球』を発つと、女の口から聞いたとしても。
きっとオレは、後悔はしない。
――――背中を押して、「行って来い」と言ってやれる。
だから・・・・今のこの状況を、どうにか打破しなければ。
「――――ちょっ・・・・良いから!マジでこっち向け!向いて下さい!お願いしマス!」
神楽の行動を阻止しながら、必死に大声を出す。
―――――瞬間。
力が加わっていた身体が、ふっと緩んだ。
・・・・どうやら、抵抗は諦めたらしい。
しかし頑として、顔をこちらに向けようとはしなかった。
「・・・・一体・・・・何アルカ。私が出て行って
・・・・折角一人になって『自由』を、手に入れたって言うのに。どうして今更、こんな事するネ?
銀ちゃんの事、良く分からないアル・・・・」
両肩が、若干震えている様に思えた。
台詞の語尾も・・・・・涙声になっている。
「――――ああ。そうだろうな」
オレが神楽の立場だったら、間違いなくそう思うだろう。
「いい加減、手を離してヨ!んでもって、早くこの場から消えてヨ!」
「・・・・残念だが、それは出来ねえ」
「――――っ・・・・この―――――」
いつまでも手を、離そうとしないオレに痺れを切らしたのか。
勢い良く振り解こうとした――――その時。
――――握っていた手首を引っ張れば、女は二の腕の中に捕らわれた。