・・・・・・え?
何・・・・これ?・・・・どういう事?
今まで瞳に映っていた風景が、瞬時に変わり――――見慣れた、黒のシャツと着流しが。
眼前に、あって。
「神楽――――」
私の名を呼んだ低音が――――頭上から降って来る。
ようやっと、今の状況が把握出来た。
今・・・・・自分は、男の腕の中にいるのだ。
気付いた瞬間、直ぐ様離れようと――――身体を動かして抗う・・・・・が。
「神楽!」
「――――」
もう一度・・・・先程より、強く名を呼ばれ。
呪に掛かった様に、私は大人しくなってしまった。
「・・・・暫く、このままでいさせてくれや」
そう言うと男は、背に回していた二の腕に力を少し篭める。
鼓膜に届けられるのは、己の心臓の音――――。
まるで早鐘の様に、高鳴っている。
このままじゃ、マズイ――――。
だが身体を離そうにも、この態勢じゃ――――。
・・・・・あれ?私の、鼓動の音じゃない?
これ・・・・銀ちゃんの、心臓の音?
どうして?何でこんなに、ドキドキしてるの?
「あ〜・・・・やっぱり、駄目だわ。かなり重症だ、これ」
――――駄目?何が?重症?
男の吐く言葉に、次々と『?』が浮かんで来る。
「――――神楽」
「・・・・・・」
「一度しか言わねえから、よ〜おく耳かっぽじって・・・・聞いてくれ」
「・・・・・・」
「今さっきまで――――お前の、オヤジに会ってた。つうか突然、『万事屋』に来たんだけどね。
明後日・・・・お前が、『地球』を離れるって聞いた瞬間。頭ん中、真っ白になっちまって」
男の言葉に、思わず両目が大きく開いていく。
パピー・・・・?銀ちゃんの所に、行っていたノ?
「――――オレがお前を、どう思っているのか?
本当に傍から、離れても平気なのか?後悔はしねえのか?・・・・って。真剣な面差しで、問い掛けられて」