大人しくしている、己の腕の中に納まっている女に向かって。
「平気な訳が、ねえって・・・・答えた」
「―――――え?」
此処で初めて、俯いていた顔が上がる。
「お前が・・・・オレの傍から、離れたら。平気な訳ねえし、絶対後悔するし――――何よりも」
大きく見開かれた碧眼と、交錯する視線。
固く閉じられた一文字の唇が、ゆっくりと動き出し。
「ぎ・・・んちゃん?」
途切れがちに、オレの名を紡いだ。
「自分の気持ち、ちゃんと伝えてねえし」
「・・・・気持ち・・・?」
まだ何処か焦点の合ってない様な、揺らめく綺麗な蒼い2つの瞳。
――――オレが此処に急いで来たのは、この為にだけ。
一旦深呼吸をしてから、「神楽」と名前を呼んで。
「――――お前の事が、好きだ。自分の傍から離してみて、初めて実感したよ。神楽がいないと・・・・気持ちが、落ち着かねえんだ。声が、聞けないだけで。笑顔が、見れないだけで。それだけ、不安定になるんだよ――――オレって奴は」
そう・・・・たった1ヶ月ちょっとしか、過ぎていないのに。
既に情緒不安定に、追い込まれて。
結局眼前の女を、忘れられずに――――恋焦がれて。
「だから・・・・お前に・・・・・戻って来て欲しい。素面のオレに、戻る為にも」
神楽の声が、耳に届くだけで。
神楽の笑顔が、視界に映るだけで。
神楽の指先が、腕に触れるだけで。
神楽の温もりを、この身で感じれるだけで。
―――――コイツの、すべてで・・・・オレは。
「――――銀・・・ちゃん?」
坂田銀時で、いられる。
自分自身を見失わずにいられる――――大切な、存在なのだから。
「オレの傍に、戻って来てくれ」
―――――言いたい事は、全て伝えた。
例え拒否されたとしても、もう後悔は無い。
「う・・・・そ」
信じられないと言った態で、口元を震わせながらこちらを・・・・凝視する女に。
「嘘じゃねえよ」と、即答した。