容の良い唇が、ぎこちなく言葉を述べてくれた。

泣いていた所為で、途切れ途切れの台詞になっていたが。

―――――言いたい事は、ちゃんと理解出来た。

『本当に、戻って良いの?』

当然だろ。こっちから、そうしてくれって。願ってんのに。

此処で肯定の意を示さねば、コイツは本当に離れて行ってしまう。

―――――それだけは、絶対にさせない。

涙で濡れた陶磁の様な頬に、手を添えて。

「願ったりだ」と、満面の笑みを浮かべた。

オレの放った言葉に、女はまだ涙で潤む碧眼を。

限界位置まで、見開くと。

秀麗な顔をまた歪ませて、「銀ちゃん!」とオレの名を呼んだ。

力無く下ろされていた両腕が、此処で初めて――――背中に回される。

頬に添えていた腕はまた自由となり、再度愛しい女を抱き締め返した。

微かに震えている華奢な身体を慈しむ様に、背中を上下に優しく撫でれば。

「・・・・ちゃん!銀ちゃん!」

涙を含んだ甲高い声色で、何度も連呼される己の名。

喜びと愛しさで・・・・抑えていた『本能』が、ひょっこり頭を出して来る。

「――――神楽」

抱き締めていた、両腕の力を緩めて。

嗚咽と、しゃっくりを繰り返す眼前の女を――――そっと引き離していく。

未だ俯く顔を、両側から手を添えて。

軽く上へと、持ち上げた。

綺麗な蒼を持った瞳は、溢れんばかりの涙で覆われている。

もう一度優しく、頬から顎へと伝う涙の軌跡を拭って。

オレ自身の身体を、若干傾けさせ。

半開きとなっている、淡い桜色の柔らかそうな唇に。

―――――唇を、注いだ。

お互いの熱が重なった瞬間、女の身体は一瞬だけ硬直したが。

抵抗も拒否も、されなかった。

数分の唇の逢瀬を名残惜しくも、終わらせ。

驚愕の表情を浮かべている愛しい女に、内心苦笑いしながらも。

長年隠し続けて来た本音を、吐露する事にした。

「・・・・・お前の知らない、『坂田銀時』になっても良いか?」

「私の知らない・・・・銀・・・・ちゃん?」

疑問を投げつけて来る神楽に、オレは真顔で首を縦に振った。





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※銀さん、とうとう『本能』を覚醒させました(笑)
後もう少しで、完結となります。もう少々お付き合いをお願い致します。