かぶき町界隈へと、戻って来たオレ達。
前方に見慣れた屋根と、看板が視界に入った瞬間。
「・・・・・・あ」
神楽との逢瀬ですっかり存在を忘れていた、星海坊主を思い出す。
動かしていた両足が無意識に止まり、全身の血の気が下がっていくのを感じた。
―――――マズイ。非常っに、マズイ。
何が、マズイかって。最愛の娘と共に、『朝帰り』をしてしまった事である。
確かにオレは、オヤジから・・・・・「気持ちをぶつけて来い」とは言われたが。
「朝帰りをして来い」とは、言われていない。
―――――それは、つまり。
結果的に吉と出るか、凶と出るか?のどちらかとしても。
・・・・・オレは、『万事屋』に戻らねばならなかった。
お互い気持ちを通じ合えたなら、神楽を連れて帰れば良かった訳だし。
もし断られていたなら、単身戻ってくれば良かった訳だし。
・・・・あの禿げオヤジ・・・・・今、何処にいるんだろうか。
もしかして――――もしかして。ひょっとして、まだ家にいたり?
その可能性が、大だ。――――いかん。全身から、嫌な汗が噴出中なんデスケド!
絶対にオレ、殺されるヨネ?一発で、あの世逝き決定だヨネ?
顔面蒼白&硬直状態のオレを、怪訝に思ったのか。
数歩先に歩いていた女が、肩越しにこちらへと振り返る。
「――――?どしたネ?銀ちゃん。戻らないノ?」
―――――いや、戻りたいんだけども!戻れないって言うか、戻りたくないって言うか。
「銀ちゃん?」
いつまでも歩を進めようとしないオレに、神楽は整った眉を寄せて覗き込んで来る。
ああ、そうだよな。今こうして、愛しい女が此処にいてくれるのは。
くされ縁の、幼馴染の言葉と。この女の父親の後押しが、あったからこそだ。
まあ――――ヅラは、置いておくとして。星海坊主には、ちゃんと報告する必要がある。
「・・・・・神楽」
「え?」
「オレが無事でいる事を、祈っててくれよ?」
そう伝えると、石の様に固まっていた両足を動かした。
何の事?と、言わんばかりの表情をしている女の横を通り過ぎ。
『万事屋 銀ちゃん』の、看板を目指す。
地面から家へと続く階段を昇り、玄関の戸へと手を掛け開ければ。
やはり其処には脱ぎ揃えられた、星海坊主のブーツが置かれていた。