腰を下ろしていた身体を、ゆっくりと立ち上がらせ。
パピーは私の元まで、近づくと。
右手を頭の上に、乗せてきた。
「――――じゃあな、神楽。また、顔出すから。あの野郎に酷い目に遭わされたら、必ずオレに言えよ?ボコボコにして、再起不能にしてやっから」
父親の冗談の様な、本気の様な台詞に――――私は思わず、苦笑いを浮かべた。
「うん、分かったアル」
「・・・・もう少し、ゆっくりされたら良いのに」
隣にいた新八が、遠慮がちにパピーに話し掛ける。
それに対し眼前の父親は、メガネ青年に視線を移動させ。口元の、両端を上げた。
「心遣いだけ、貰っとく。『毛生え薬』サンキュな。兄ちゃん」
「じゃあ・・・・せめて、ターミナルまで送りますよ」
新八は私と銀ちゃんに向けて、『同意』を求めて視線を投げて来たが。
首を左右に振って、パピーは否定した。
「久しぶりに『万事屋』メンバーが、揃ったんだ。積もる話もあんだろ?オレに気を遣うこたあねえよ」
そう言うと父親は、マントを翻し――――居間から玄関への道程を進もうとする。
―――――が。廊下で足を止め、踵を返すと。
足早に居間へと戻って来て、再び銀髪男の前に立った。
銀ちゃんは両目を少しだけ、見開いている。
「おい。またてめえに、神楽ちゃんを託す事になる。・・・・今度また、しょーもねえ理由で神楽に辛い思いさせてみやがれ。拳固だけじゃ、済まねえからな。神楽にも言ったけど、再起不能になるまでボコってやる。んでもって、簀巻きにしてお江戸の海底へ沈めてやらあ。覚悟しとけよ?」
真摯な表情で、『脅し』とも言葉を投げ付けると。
銀ちゃんは、唇の両端をゆっくり吊り上げた。
「―――――ああ。二度と、しねえよ。てめえでてめえの、首絞めるマネなんざ」
「ふん。ったく・・・・・世話の掛かる、『息子』だぜ。手に負えないのは、1人で十分だってのによ」
パピーの言葉に、銀髪男は息を呑んで瞠目した。
そんな男に父親は、唇の片端だけを上げて。
「――――まあ、1人『家族』が増えた所で。大して変わらんか」
そう言って踵を返し、居間から廊下を歩いて玄関を目指す。
私は無意識に、玄関へと両足を動かした。
ブーツを履く、父親の大きな背を見つめていたら。
瞳の奥が、じんと熱くなった。