長椅子に預けていた身体を持ち上げて、星海坊主がいる玄関へと急ぐ。

「銀さん?」と、新八に声を掛けられたが。それどころでは、無かった。

急ぎ足で廊下を歩けば、視界前方に神楽とオヤジが映る。

さっきの、あの言葉。――――聞き間違いなんかじゃない。

「――――星海坊主!」

ブーツを履き終えた星海坊主に、咄嗟に声を掛ける。

「今度は、幸せ一杯の神楽の顔を拝みてえもんだ」

玄関の戸に掛けた手を、止めると――――肩越しに振り返り。

「頼んだぜ?銀時。それが出来んのは、てめえだけなんだからな」

短い言葉を述べると、左手を掲げて玄関の戸を開け。

「あばよ」と磨りガラスの向こう側へと、姿を消した。

シルエットは見えなくなり、磨りガラスの戸しか見えなくなる。

「・・・・あのオヤジ。オレの事――――『息子』って言った」

「うん」

隣で同じ様に玄関の戸を見続ける女に、無意識に声を掛けていた。

噛み締める様に、再度同じ台詞を紡ぐ。

「『息子』って・・・・言ってくれたんだ」

「うん」

神楽は優しい笑顔を浮かべて、小さく頷く。

『あんたみたいな父親が、欲しかったよ』。

あの言葉を、あんたは――――覚えてくれていたのか。聞き流しても、おかしくないのに。

じんわりと胸中が熱くなったのは、気の所為じゃない。

「――――銀ちゃん?」

僅かに碧眼を潤ませた神楽が、顔を覗き込んで来る。

「いや・・・・わりィ・・・・」

オレは咄嗟に右手を額に当て、女の視線を遮った。

―――――いかん。涙腺が緩んだのって、いつくらいだろう?

遥か昔に思えるし、最近にも思える。

「益々――――期待、裏切らねえよな。『おとうさん』のよ」

「銀ちゃん・・・・・」

「今度また、オヤジが来た時には――――お前の幸せな顔を、たくさん見せてやらなきゃ。んでもって。お前に託したのは、正解だったと思って貰わなねえと。示しがつかねえ」

涙腺が落ち着いたのを見計らって、額に当てた手をゆっくりと下ろせば。

「期待してるヨ」と、微笑んだ神楽の顔が映る。

「ああ」

オレは脳裏にもう一度、『オヤジ』の顔を浮かべた





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