「銀さん、神楽ちゃん」
――――私達の背後で、もう一人の『従業員』が声を掛けて来た。
「・・・・星海坊主さん。行っちゃったんだね」
残念そうに玄関に視線を送りながら、ぽつり呟いたが。
「――――とりあえず、居間に戻っては?お茶淹れますよ」
「そうだな。いつまでも此処にいても、しゃあねえか」
男二人の言葉に倣って、私も踵を返して笑うと。
「新八の茶、飲むの久しぶりアルナ。――――ほら、のんびり歩いてないで。さっさとかぶき町の女王に献上するヨロシ」
この言葉に新八は、「はいはい」と苦笑した。
・・・・・懐かしい、このフインキ。
やっぱり、此処が一番――――居心地が良い。
「ね?銀ちゃん」
自分の数歩先を行く男の背に向かって、名前を呼んだ。
「あ?」
「さっき、パピーと何コソコソ話してたネ?」
テーブルを挟んで、顔を至近距離まで近づけて。
「――――あ〜・・・・。何で『朝帰り』したかって、話」
新八に聞こえぬくらいの声で、答えを返して来たのだが。
「!?」
『朝帰り』。
このキーワードを鼓膜に入れるだけで、昨夜と今朝の映像が脳裏に浮かび出され。
顔から湯気が、湧き出る状態に陥ってしまう。
「そ・・・・それで、銀ちゃんは?何て答えたノ?」
「答えられる訳が、ねえだろ。『頂いちゃいました』なんて。殺されてたもん、絶対」
――――確かに、そうだ。以前私を連れ戻しに来た時でさえ、あんなに心配していたのだ。
この男に、身を全て委ねたと知られてたら。
間違いなく銀ちゃんは、『あの世』逝き決定だったろう。
「・・・・でも。多分――――気付いてるぜ?おとうさん」
「え!?嘘!――――じゃあ、何で。銀ちゃん、無傷アル」
私の言葉に初めて、肩越しから振り返ると――――口元を吊り上げて。
「多少は・・・・認められたって、事なのかもな?」
「認められた?」
「――――ああ。お前との事」
凄く嬉しそうに、言うもんだから。
湯が湧いた状態から、更に頬が熱くなるのを感じた。