「はい、どうぞ。お待たせしました」

メガネを掛けた青年が、三人分の茶を淹れて。

隣同士で腰掛ける、オレ達の前に二人分の湯呑みを置いた。

そして、眼前に座る新八。

――――ああ、やっぱり。三人が揃うと、落ち着く。

オレがいて・・・・神楽がいて、新八がいて。

そして「ワン!」と、一吼える―――定春。

誰一人として、欠けてはいけない存在達。

湯呑みを口元に運んだ後、新八はオレ達に視線を寄越し。

「―――――やっぱり。2人が並んでるのは、良いですね」

そう言って、笑顔になる。

オレと神楽は、自然と視線を合わせた。

二の腕は触れそうで、触れない距離。

―――――けれども、互いの熱を感じ合えてる気がする。

「・・・・・ああ。そうだな」

2つの碧眼が、オレの姿を捉え。

「―――――私も、銀ちゃんの隣が。一番落ち着くネ」

甲高くも心地良い声色が、オレの名を紡ぐ。

虚像でも無い、幻でも無い―――――。

愛しい女が、すぐ傍に。

「え〜・・・・コホン。僕、定春連れて・・・・散歩がてら。買い物して来ますね?」

オレ達を気遣っての事か、わざとらしく咳払いすると。

そんな言葉を、投げかけて来た。

新八は椅子から立ち上がり、定春の方へと足を向け。

「ワンワン!」と尻尾を振る巨大犬にリードを付けて、居間を後にしようとし。

「行って来ます」とだけ告げると、定春と共に玄関へと赴いて行った。

「・・・・・なんつか。しらじらしい、演技だったな」

「うん。――――でも、新八らしいネ」

右手を口元に当て、鈴の音の様に笑い声を出す神楽。

そんな姿にオレも、笑顔が自然と浮かんで。

「――――折角の、奴の好意だ。素直に、受け取っておきますか」

身体を神楽に向け、陶磁の様な頬に己の手を当て。

僅かに上に傾けさせ、顔を近づけていく。

「・・・・・あれだけ、接吻しといて。まだ足りないアルカ」

やれやれと言った表情を浮かべる女に、当然だと首を縦に振る。

「当たり前だろ?全然、足りねえよ。つうか、お前自身が足りない」

「全く――――どうしようも無い、貪欲男アルナ」

口調はいつもの毒舌だが、嫌がる素振りは全く見せない。

それどころか、口元には笑みが浮かんでいる。

「それは、褒め言葉として。受け取っておくわ」

自身の唇の両端を上げて、そう言えば。両肩を竦める、愛しい彼女。

肩から一房零れ落ちる絹糸の様な髪を、右手で受け取る。

「――――髪、伸びたよな。あんだけ、短く切ったのに」

そう言うと神楽は、上げていた唇の両端を途端に下げる。

「・・・・どうせ、私は。ショートは、似合わないからナ。あれから、1ミリも切ってないネ」

「何で、似合わないんだ?」

「――――忘れたのカ!?髪を短くした私に向かって、『何でショート?』の一言で終わらせたのは銀ちゃんデショ!
もう絶対ショートにしないって、あの時決めたアル」

「え?あれって、もしかして。オレの為に切ったの?
てか・・・・・オレ、別に。似合わないなんて、一言も言ってないよね?」

「――――へ?じゃあ・・・・どして――――」

2つの碧眼が限界まで見開かれ、理由を問い掛けている。

「・・・・いや、なんつうか。何で突然ショートにしたか・・・・理由分かんなかったし。
あまりにも、『ストライク・ゾーン』過ぎて。言葉が出てこなかったつうか――――」

いかん。言葉が、しどろもどろになっている。

「・・・・つまり、似合ってたの?ショートヘア」

「ドンピシャです。でもね――――髪型で、お前を好きになった訳じゃないから」

「私はこの天パ含めて、銀ちゃんが大好きアル」

「あ〜・・・・初めて、天パで生まれて来た事――――感謝するわ。マジで」

――――この言葉を皮切りに、唇と唇が重なり合う。

唇に訪れた幸福を、全身で感じつつも。

まだまだ、こんなモンじゃ物足りない――――と。

声にならない叫びが、身体中を包んでいく。

本当に、足りないんだ。

お前と離れた、この一ヶ月以上―――――。

いや・・・・もうずっと、以前から。

だから。

不安定に苛まれていたオレを、存分に満たしてくれ。







青く澄み切った、綺麗な2つの瞳で。

オレを、捉えて。

淡く色づいた、その容の良い唇で。

オレの、名を呼んで。

白く肌理の細かい、華奢な手で。

オレに、触れて。そして求めて。








君の声で 君のすべてで

『坂田銀時』という男が、形成されるのだから。

                                                                            END(2011.10.01)



後日談


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